なぜ“役員紹介”ページで応募率が上がるのか? 採用の“裏の鍵”は、トップの顔にあった?

第1章:「役員紹介」なんて誰が見るのか?

企業のコーポレートサイトを眺めていると、ふと目に止まる「役員紹介ページ」。そこには社長や取締役の顔写真と肩書、そして定型文のような略歴が淡々と並んでいる。
──正直なところ、求人目的で企業サイトを見に来た応募者が、このページを真っ先に開くとは思えない。

実際、多くの企業が「おまけページ」としてこの役員紹介を捉えている。SEO的にも弱く、アクセスも少ない。にもかかわらず、ある施策を施すことで、この“ひっそりとしたページ”が、採用に劇的な効果をもたらすことがある──という事実は、意外と知られていない。

なぜ、そんなことが起こるのか?
その鍵は、「誰が語っているか」という視点にある。

第2章:採用ページが“誰目線”で語られているか?

採用ページには、たいてい「私たちの会社について」「働き方について」「福利厚生」「社員の声」など、定番のコンテンツが並ぶ。
これらのコンテンツは、言ってみれば“企業全体”として語られる情報だ。つまり、「私たち」という主語の下にある言葉である。

だが、採用において最も強く響くのは、「組織」ではなく「個人」が語る言葉だということを、私たちは忘れがちだ。

特に、求職者が強く気にするのが次のようなポイントだ:

  • この会社は信頼できるか?
  • 経営者はどんな考えを持っているのか?
  • この人たちの下で働きたいと思えるか?

こうした問いに対して、会社案内的な言葉では足りない。誰がそのビジョンを持ち、どんな価値観で経営しているのか──その“顔”が見えることが、想像以上に応募の決定打になる。

つまり、「役員紹介ページ」は単なる形式的な人物紹介ではなく、会社という抽象的な存在に“人格”を与える貴重な場になり得るのだ。

第3章:人は「誰と働くか」で意思決定する生き物である

「働く場所」を決めるとき、人は本能的に“安全性”を測る。
そしてこの安全性は、制度や給与といった「明文化されたルール」ではなく、「人柄」「信念」「雰囲気」といった定性的な要素から感じ取ることが多い。

たとえば──

  • 「この社長、堅苦しそうだけど、意外と社員想いなんだな」
  • 「この人のインタビューを読んだら、働いてみたくなった」
  • 「この専務、元は技術職出身か。現場の苦労も分かる人かも」

こういった“人間味”のある印象が与えられたとき、求職者は初めて「ここで働く未来」を具体的にイメージし始める。
つまり、役員紹介ページの真の目的は「人間の顔を見せること」なのだ。

第4章:履歴書よりも“信念”を語るページへ

ここで、ひとつの問いを投げかけたい。

なぜ、役員紹介ページには“経歴”しか書かれていないのか?

もちろん、学歴や職歴は一つの参考になる。しかし、それだけで“この人と働きたい”と思えるだろうか?

むしろ今求められているのは、「なぜこの会社を作ったのか」「どんな未来を目指しているのか」「どんな仲間を迎えたいのか」といった、経営者個人の「信念」を語るページではないか。

この考え方をベースにした企業の事例では、以下のような効果が見られた。

  • 経営者の想いを語るコラムを埋め込んだことで、採用応募率が3倍に増加
  • “会ってみたい役員”ランキングの投票企画がSNSで話題に
  • 外国人採用において、トップの人柄に共感し内定を決意した事例も

つまり、“単なる紹介”から“対話の入り口”に変わったとき、ページの価値は大きく変わる。

第5章:「役員の顔」を“編集”する時代へ

では、具体的にどのような工夫が可能だろうか?

ここでは、単なる略歴や写真だけで終わらない「役員紹介ページ再構築」の視点を3つ紹介したい。

1. 語り口の選択:「本人の言葉」を使う

役員紹介は、広報が書いた無機質な文体よりも、“本人が書いたような語り口”の方が断然響く。
少しくだけた表現、ユーモア、体験談、失敗談──。形式にとらわれず、“人となり”がにじみ出る文章を試みたい。

2. 「問い」に答える構成にする

「あなたはなぜこの会社を始めたのですか?」
「あなたにとって“いい会社”とは何ですか?」
「どんな人と働きたいですか?」

このように“問い”に対する“答え”という構成にすると、自然と熱量のこもった文章になりやすく、読者も共感しやすい。

3. 動画や音声での「肉声」導入

もし可能なら、インタビュー動画や音声も大きな武器になる。
声や表情からにじむ空気感は、文字だけでは伝わらない説得力を持つ。編集の工夫次第で、まるで“役員と1対1で話しているような体験”を提供できる。

第6章:求職者は“企業”ではなく“人”に応募する

ここまで見てきたように、役員紹介ページの真の価値は、
「この人たちと働いてみたい」と思わせる“人格的魅力の発信”にある。

従来の採用ページがスペックや制度で企業を語るなら、役員紹介ページは“感情と信頼”で語る場所である。

たとえ応募者がそのページに直接アクセスしなくても──
SNSのプロフィール動画に使われたり、社員紹介動画のナレーションとして組み込まれたり、リクルートパンフレットのQRコードに変換されたり──
その“人となり”は、企業全体の印象として滲み出ていく。

おわりに:匿名の社会で「顔を出す」という強さ

SNS時代の現在、企業も経営者も「顔を出す」リスクを避けがちである。
だが、顔を出すことは、弱さではなく“強さ”の表明でもある。

  • 「この人は信じられる」
  • 「この人の下でなら成長できそう」
  • 「この人に話を聞いてみたい」

そんな“見えない感情”を生み出せるページこそが、「役員紹介ページ」だ。

静かで目立たない場所にありながら、じつは応募率という「結果」に強く影響している──
だからこそ、いま改めて注目すべき採用コンテンツのひとつである。