採用ページに“エラーの余白”をつくる設計とは? 完璧主義では伝わらない「人間らしさ」の設計思想

第1章:なぜ採用ページは“完成度”を目指しすぎるのか?

企業の採用ページを見渡してみると、そこには驚くほど整然とした「正解の世界」が広がっています。

明快な理念。ロジカルな職種紹介。整った写真。統一された言葉遣い。

まるで“模範解答”のように、隙がない構成。これは採用活動において「間違いがあってはいけない」「不安を与えてはいけない」という心理が反映された結果と言えるでしょう。

しかし、実際に人が「応募したくなる瞬間」というのは、こうした完璧さに触れた時ではありません。

むしろ、“ちょっとしたエラー”、“思わぬ抜け”や、“余白のある言葉”に触れたときに「この会社、いいかも」と思うことがあるのです。

完璧さではなく、“人間らしさ”。

その象徴となるのが、本稿で提案する「エラーの余白」という考え方です。

第2章:「エラーの余白」とは何か?──定義と背景

ここでいう「エラー」とは、間違いや不備を指すものではありません。完全ではない、人間的な“揺れ”や“はみ出し”のことです。

そして「余白」とは、そうした“ゆらぎ”を意識的に残すスペース、もしくは構造のこと。

▼ 例を挙げると…

  • 「完璧で整いすぎたインタビュー」ではなく、ちょっと言い淀んだ言葉をそのまま載せる
  • 「職種紹介」にも、少し笑える“裏話”を添える
  • 「よくある質問」に、実際に現場で困った出来事を載せてみる

一見“隙”のようにも見えるこれらの要素こそが、応募者に「リアルな組織像」を伝え、信頼を得るための武器になります。

第3章:「共感」は“正しさ”ではなく“違和感”から生まれる

これは心理学的にも裏付けられています。

人間は、「完全なもの」よりも「少し欠けたもの」に親しみや共感を感じる傾向があります。これを「不完全性効果(Wabi-Sabi効果)」と呼ぶこともあります。

例えば、少し斜めに置かれたコーヒーカップ。無造作に折られたメモ紙。完璧ではないが、そこに“誰かの手ざわり”がある。

同じように、採用ページにおいても「少し不揃いな会話」や「手作り感のある言葉」があることで、読む側の心に“余白”が生まれます。

そして、その余白こそが、「応募しようかな」という感情の入り口になるのです。

第4章:なぜ企業は“エラー”を恐れるのか?

では、なぜ多くの企業はこの「エラーの余白」を恐れ、あえて排除しようとするのでしょうか?

主な理由は以下の通りです。

  • (1)リスク管理の発想が強すぎる
    採用ページは「会社の顔」──そう考えるほど、ミスがあってはいけない、誤解を与えてはいけない、という慎重な空気が漂います。
    しかし、これが行き過ぎると、まるで校正済みの論文のような採用ページになってしまい、読者は感情を動かされません。
  • (2)「情報提供」が目的になってしまう
    本来、採用ページは「人と会社のマッチング」が目的です。ところが、いつのまにか「正確な情報を伝えること」だけが主目的になってしまう。
    その結果、“魂のない情報の羅列”になり、「読む理由」がどんどん失われていくのです。

第5章:設計の実践──「エラーの余白」をつくる5つの方法

  • 1. インタビューに“言いよどみ”を残す
    社長や社員インタビューで「えーと…なんて言えばいいのかな」といった自然な間(ま)を削除せずに残すと、文章にリアリティが生まれます。

    解説:ナラティブとは、「物語」「ストーリーテリング」のこと。マーケティングでは、“情報”ではなく“物語”で語ることで共感を呼ぶ技術として注目されています。

  • 2. “裏話”を1つ入れる
    例えば、職種紹介ページで「実は最初はミスばかりしていましたが…」といったストーリーを差し込むことで、応募者は「自分にもできそう」と感じます。
  • 3. 写真に“素”の瞬間を使う
    フォトグラファーによる撮影だけでなく、社員がスマホで撮った「ちょっとブレた写真」などを使うと、場の空気感が伝わります。
  • 4. FAQに“困った質問”を入れる
    「Q:この仕事、キツいですか?」といった、答えづらい質問をあえて入れると、誠実さが伝わります。
  • 5. “断定しない言葉”をあえて使う
    「向いている人は、もしかしたら──」
    「たぶん、こんなタイプの方が合うと思います」
    といった、“揺らぎ”のある表現を入れることで、読む人は自分の判断軸を探しやすくなります。

第6章:AIと「余白」は共存できるか?

最近では、採用ページの一部をAI(人工知能)で自動生成するケースも増えてきました。キャッチコピー、質問項目、職種紹介など──。

確かに効率化にはなりますが、AIが生成した文章は「完成されすぎている」ことが多く、“余白”が失われがちです。

ここにこそ、人間の介在価値があります。

AIにベースを任せつつも、「エラーの余白」を人間の編集者が設計する──そんな“共創型の制作”が今後の主流になっていくでしょう。

第7章:「エラー」は信頼のデザインである

人は“完璧な正論”よりも、“不完全な本音”に信頼を寄せます。

これはどんな職種、どんな規模の会社、どんな時代でも変わりません。

応募者は、企業の“正しさ”だけでなく、“共に働ける温度”を探しています。

その温度がにじみ出るのは、完璧な構成よりも、ちょっとしたはみ出し、ちょっとした余白の中なのです。

おわりに:「間違いを恐れない」採用ページへ

採用ページは、企業の“顔”であると同時に、“声”でもあります。

その声が、完璧すぎて感情がこもっていないロボットのようなものであったなら、誰も耳を傾けてくれません。

「間違ってもいい」
「言葉にしきれない部分がある」
「それでも一緒に働きたい」──

そんな空気感を伝えるために、“エラーの余白”を恐れない設計を、いまこそ考えるべきではないでしょうか。